星街すいせい@阿蘇ロックフェスティバル ライブ配信視聴レポ

(ライブの様子が少しだけ見られます!)

 

音楽フェスティバルと聞けば、想像される場所はおおよそ屋外である。まして言うまでもなく、現地参加するものだ。コロナ禍を受けてオンライン配信されるケースはあったが、声出しを制限された状況だったためイベントとしてはほとんど別物だった。2023年、かつての賑わいを取り戻した野外フェスを、リアルタイムで、しかしその場に居ずして見守るというのには何とも不思議な気分がする。

一方、コロナ禍にあって台頭したバーチャルライブは屋内で視聴するものだ。普段Youtubeで配信されるライブはもちろん、イベント会場で開催される大型ライブでさえ、屋根の下、閉鎖空間の中で観ていることに変わりはない。

そういうわけで、「野外フェスにバーチャルアイドルがヘッドライナーとして参加し、それを生配信で視聴する」という何重にも不思議な状況が今、目の前にある。

Vtuber界のトップランナー、星街すいせい。今年初めのアルバムリリースやソロライブ、”THE FIRST TAKE”へのVtuber初出演などを経てさらに勢いを増し、7月には音楽番組”THE MUSIC DAY”に出演するなど、バーチャルの肩書きを超えて進出を続け、次世代の道を切り拓いている。

そんな彼女が、9月30日に、九州の野外音楽フェス「阿蘇ロックフェスティバル」1日目のヘッドライナーを務める。初めての試みなのはもちろんの事、野外、それも阿蘇の山奥と、画面越しに現れるアバターという二つの要素はなかなか連想されるものではないだろう。それらが組み合わさって一体どんなショーになるのか、始まるのが待ちきれない。

 

雲の遮り一つなく、十六夜月が空にぽっかりと浮かんでいる。それをじっと見つめていると、突如配信の視界が切り替わる。

お馴染みのライブ衣装で現れた星街すいせいを、待ち侘びたファンの大歓声が出迎える。


阿蘇ロック、盛り上がっていけんのかぁ〜〜〜ッ!!!」

ステージ中央に鎮座する大型スクリーンの中を横切りながら腕を振り、会場を盛り上げていく。

ホーンの音色が華々しい一曲目は、2ndアルバムのリード曲”みちづれ”。
アーケードゲームを彷彿とさせる映像と共に、オレンジのライトが奥までぎっちりと詰めかけた人々を照らし出す。
特に前列に陣取る彼女のファン:星詠みは、それぞれ手にしたペンライトを青く光らせて、無心に振りかざしている。

真っ暗なステージの上、鮮烈に立つ星街すいせい。
舞台左右のスクリーンにも、大きく彼女の姿が映る。
イントロを抜け、きらびやかな余韻の中で艶やかに歌い出すと、ステップ軽く駆けて、会場の士気をさらに上げていく。テンポ良く突き上がる拳。
くっきりと聞こえる、芯のある澄んだ歌声。安定感あるパフォーマンスに、ますます磨きがかかった実力を痛感する。

これはパレードさ
足を引きずろうとも
この滲む痛みと引き換えに 
有り余る喜びに出会えるの
これは愉快なパレードさ
私が生きた証ばら撒くから
お気に召したなら共にゆこう
道連れにしてあげるわ

予想だにしないほどの合唱がサビで巻き起こった。画面を超えて、声から差し迫る会場の興奮、ぎらぎらと滾る熱気。
普段は一人ひとりが抱える熱がここに結集し、互いに高め合いながら更に大きくなっていく。
同時接続数からは想像もつかなかった、彼女が引き連れてきた人の何と多いことか。そして画面越しに見守る人も含めて、それすら彼女のフォロワーのほんの一部に過ぎない。
その圧倒的なスケールを今一度目の当たりにした。

「盛り上がれますかみなさん!
 燃えてますか!!!」

ふと、ライブの声出しが解禁された2ndライブの日を思い出す。当時も、ライブの活気が戻りつつあることを実感して感慨深かったが、今の盛況はもうその比ではない。

かつてのような生活が戻ってきつつも、ステイホームの中で台頭した潮流は引き継がれ、リアルとバーチャルが交差する新しい時代の只中にいるのだと、少し実感する。

そしてその最前線に立ち、いつも通り自分の在り方を貫く星街すいせいの立ち姿には、確かにヘッドライナーとしての貫禄があった。

 

歌い切って喝采が止まない中、騒々しく掻き鳴らすカッティングギター。灼熱にて純情(wii-wii-woo)が会場のリミットを限界突破させる。
「アツイアツイ炎見せてやろうぜ!!」
すぐさま歌い出すと、沸々とテンションを上げていく。2曲目にして既にトップギア

What’s 純情? お口に合いますか?
甘ったるいだけじゃ満足しないね
スタンバイはとっくにできてるの
じゃあ time is now, time is now

阿蘇ロック!!!!!」

一斉に赤へ変わるペンライト。
照明が客席を真っ赤に染める中、
過剰なまでのスピードで突き抜けていく。
バチバチのスラップベースがリードするのに従って、ガンガンに手を振り頭を振る。

Bメロではビートが半分に。
対照的に、口早に捲し立てラップする歌唱。
スクリーンに羅列される文字群。
フェンスに押し寄せヘドバンするオーディエンス。

激烈なハードロックと音楽フェスの相性は、合いすぎるにも程が有る。

いよいよサビに突入して、
足が地面から浮き上がる。
波打つばかりの勢いでジャンプ、
前のめりにノッていく観客席。
サビでの合唱もしっかりと聞こえる。
ノンストップ、ピアノも交えて展開し続けるトラックを、息切れ一つせず歌いこなしていく姿は圧巻だった。

「もっと、もっと、もっと、

声が聞きたあああああい!!!」

応えるように、ギターソロの中、
雄々しく響く掛け声。
ラストに至るまで、勢いを弛めず疾走する。
これでバンドまで生演奏だったなら。
ライブは始まったばかりなのに一瞬そう思ってしまうほど、更なる可能性まで感じさせる一曲だった。

命を燃やさんばかりの熱唱を、観客席はありったけの歓声で讃える。

 

MC

「ありがとうございま〜〜〜す!」
喋り出すと一転して和やかな空気が流れる。

「改めて、自己紹介させてください!
彗星の如く現れたスターの原石!
アイドルVtuberの星街すいせいです!

すいちゃんは〜?」

 

今日もかわいい〜〜〜!!!

 

いつものあいさつに全力全開で返す観客席。

「ありがとうございます 
こんな こんな山…山の中まで来てくださった皆様 本当にありがとうございます
そして、『なんか急に不思議な女の子が出てきたぞ?』と思ったそこの皆様方、初めまして!
バーチャルアイドルの星街すいせいと申します〜
はい〜よろしくお願いいたします〜」

自己紹介を終えると、軽く熊本でのエピソードを語る星街。どうやら道に迷ったらしい。

「あれなんですよ
なんかGoogleマップの通りにいってたのに 
なんか山の頂点みたいなとこについて
マジで落っこちたら死ぬと思って
本当に命の危険を感じた(笑)」

星「今日はですね なんと、 
スペシャルゲストが駆けつけてくれています!
熊本といえばこの人!
くまモン、そしてMCのスマイリー原島さん!!」

 

原「さあきたぞ〜〜〜!」

勢い良いしゃがれ声と共に MC・スマイリー原島くまモンが姿を見せると大盛り上がり。

かけ声に合わせて会場のみんなが一斉にジャンプする。

原「すいちゃん、飛ぶねえ」
星「飛びますよいくらでも いえぇい
お客さんも飛んどります」
原「くまモンあんま調子こくと俺たちステージから落ちるぞ…」

くまモンの可愛さにすいちゃんもデレデレ。
くまモンがすいちゃんに急接近して原島さんに止められる場面も。
お客さんも含めて、とてもフレンドリーな雰囲気。

原「なんかすいちゃんからくまモンに質問とかありますか?」
星街「くまモン、初めての熊本なんですけど
熊本のおすすめってなんかありますか?」
原「熊本のおすすめ…ん?なんだって?」

思いついたように顔の前でグイングイン腕をふり、
麺をすするジェスチャーをするくまモン
原「うどん?」
膝をつき地面を打つくまモンどう考えてもどうやら違ったみたい。

原「ごめんね俺がボケすぎたね すいちゃんごめんボケたボケた」
星「あ、うどんは有名じゃない」
原「くまモンはね、ラーメンが大好き!(Foo!!!)」

星街「何ラーメンですか?しょうゆ?」

 

原「(笑)すいちゃん…今一番言っちゃいけないこと言ったから」
星「えヤバイ!死ぬ?ここで」ここが福岡じゃなくてよかったね
表情は変わっていないはずなのに途端に虚無顔に見えてくるくまモン
原「ボケにもなってなかったから
九州といえば、とん!こつでェ〜す!
イエエエイ!!!)」
ついでに会場をあおるくまモン

原「すいちゃん最高でした今の『ん?しょうゆ?』って 初めて聞いたびっくりした」
星「とんこつもおいしいよね〜くまモン!」
グッ!とサムズアップするくまモン

原「じゃあくまモンと私から
エールのジャンプをもう一度送りたいと思います!
すいちゃん、ジャンプ!」

最後にまた、会場のみんなで一斉にジャンプ。最後まであたたかい一幕だった。

原「すいちゃん、この後も、

初めての野外フェス、そして初めての熊本、初めての九州、

みんな、楽しんで頂戴!!!(イエエエイ!!!)」

エールを送って退場していくふたり。会場からも見送りの声が上がる。

 

星「ということでライブはまだまだ続きます!
今夜は短い時間ですが一緒に盛り上がりましょう!」

 

鳴り出したのは2018年リリース、最初のオリジナル曲”comet”のイントロ。予想外の展開に沸き上がる会場。
「星街すいせいは、ここから輝き始めた。」
ステージ中央に流れる、MVをベースにしたムービーが会場を明るく照らす。

一転して夜の紺青に沈む街が映ると2019年、2ndの”天球、彗星は夜を跨いで” 。葛藤を描いた歌詞が矢継ぎ早に画面に現れ、上へと流れていく。

そのまま2020年、二周年を迎えての”NEXT COLOR PLANET”で再び陽気になるサウンド。星街すいせいが歩んだ道のりを、メドレーに乗せて振り返っていく。

「ここまでのキラキラを詰め込んで」
2021年、”Ghost”のリリースを皮切りに次々と発表された楽曲群。そして不朽の”Stellar Stellar”を引っ提げた1stアルバム”Still Still Stellar”、さらに1stソロライブ”Stellar into the GALAXY”。
Stellar Stellar、そしてGhostのフレーズをアレンジしたトラックに乗せて、ライブの思い出深い場面が流れていく。

「キラキラから ぎらぎらへ」一段階高みへと昇った2022年。2ndアルバム”Specter”に先駆けて発表された楽曲、”灼熱にて純情”や”みちづれ”、そして”Template”のMVのカットが映る。

そして2023年。満を持した2ndライブ”Shout in Crisis”では、東京ガーデンシアターでフルキャパシティ8,000人を前に圧巻のショーを繰り広げた。クライマックスの会場全体が映った場面などは、改めて見ても壮観の一言に尽きる。

「これからも星は輝き続けていく。」
5年間の時の流れに思いを馳せる中、呼応するように現れた青い時計。
刻む分針は、やがて止まる。指したのは3時12分


序盤の力強さとは打って変わってメロウな歌声。ペンライトを振る人たちも、その眼差しは静かで、誰もがじっと見守っている。

暗い中に青のスポットライトが濃く滲む。
少ない音数の中で、滑らかなベースラインに乗せられていく。
やがてノイズ気味に刻む低音からサビへ突入し、曲のスケールは一気に広がる。

今日も願ってる
こないでこないで次の朝よ
踊っていたいよ僕ら死ぬまで
不安定で歪なこの場所で
笑いあってさ
意味のない秘密を交わしながら
夢を見てる
One, twoで世界を変えたくて

ドロップすると、一気に自由律なギターフレーズが飛び込んで来る。
一瞬の浮遊感、フラッシュバックする狂騒。

スクリーンに流れる都会のタイムラプスの中で目まぐるしく往来する人の群れ、尾を引く車のライト。

拍を掴みきれず何度も翻弄されて、追いついたと思った時には既に、余韻を残して間奏は終わっている。

 

夜のしじまの中、再び歌い出す星街。空は底無しのように暗い。

作曲したTAKU INOUE氏も公言しているが、この曲はクラブ讃歌だ。
閉鎖空間の中、爆音の喧騒と、終わった後に一層深まる街の静寂。耳に残る残響、残像。
そういったコロナ禍で損なわれていった情緒を惜しむ中で作られた2021年夏の曲だ。

それを今、一面の人々がむさ苦しいくらいに肩を寄せ合って聴き入っている。
理由を悟るより先に、堪えきれない思いが込み上げた。

「One, twoで世界を変えに行こうぜ」

夜半に最後のビートが響き、そして消える。入れ替わりに上がる拍手と歓声。

そして続けざまに鳴り渡るギターイントロに、重ねて叫び声が上がる。

 

GHOST。星街すいせいの音楽活動が本格化するきっかけになった、重要な曲だ。

切に響く歌声。キックに合わせて手拍子が鳴る。

ギターロックに乗せて伝わってくるのは、彼女が、そしてVtuber全体が抱える「実在性」という共通のテーマ。
画面越しにしか現れない、存在の不確かさを幽霊になぞらえたこのイメージは、彼女の他の作品にも反映されている。
彼女たちが活動を続ける限り、今までも、これからも、向き合い続けなければならない命題に違いない。

見えないの 僕が
僕のこの声が聞こえてる?
Dancer in the dark
シルエットすらも透明できっと
不恰好だけれど でも
せめて声を枯らそう
必死に縋っても ずっと 証明を
ねぇゴーストみたいだ

誰もが彼女に釘付けで、その表情はさまざまだ。
一緒に歌う人もいれば、感極まってじっと見つめている人もいる。このフェスティバルで初めて彼女を知った人も少なくないだろう。

Vtuberという存在の知名度が上がり、より多くの人に受け入れられるようになっても、その異質さはまだまだ変わらない。

それでも、同じ一人の人間であることは変わらない。そう認めて欲しい。

バーチャルな存在として初めて音楽フェスに降り立った今、その気迫に改めて胸を打たれる。

 

「こんな僕の心まで馬鹿にしないで」

 

音を連ねるギターソロの中、ステージを大きく横切る星街。掛け声に合わせて皆で腕を振りかざす。

やがて曲が静まると、照明が消える。
暗闇がスクリーンの存在感を無くす中、
彼女はただステージに佇んでいる。

歌い続けた言葉の通り、歩み続けてきた彼女は、
かつて想像もつかなかった舞台にまで上り詰めた。

星雲を潜っていくような映像を背に、会場一帯が再び明るく照らされていく。その中に響く歌声は消え入るどころか一層力強く、聴く人の心を照らしていた。

 

曲が完全にフェードアウトすると、今までにも増して熱い喝采が送られる。「サイコー!」「お前が最強ー!」

声援に応えながらマイクをとる星街。

「”3時12分”、そして”Ghost “歌わせていただきました!パチパチパチ

この阿蘇ロックという素晴らしいフェスに
一番最後のアーティストとして呼んでいただけて
ちょっと 最後しっとりロックで終わるのはどうかなと思ってこういう選曲にしてみましたが
皆さんいかがだったでしょうか?!!」

大きな大きな声援が返ってくる。

「ということで...
こういう野外フェス、外でライブするっていうのは本当に初めてのことだったので
どういう感じになるのか 私もドキドキで臨ませてもらったんですけど

あっちぃですねぇ!(イエーイ!

楽しいですねぇ!(イエーイ!

でも、次の曲で、

 

ラストになるんです〜〜〜!」

えぇ〜〜〜?と心惜しがるオーディエンス。

「ずっとずっと歌いたいんだけど そうもいかず…
だけど、今から歌う曲は 皆さんの心の中で
ずっとずっと止まらない音楽として、
奏で続けられることでしょう。
今宵、音楽はとまらない!
それでは聞いてください、

 “Stellar Stellar”」


だって僕は星だから

 

何度聞いても、一瞬で心を奪われる歌い出し。背後に降る流星群の氷雨

最後を締めくくるのは言わずと知れた代表曲、”Stellar Stellar”。乱打する乾いたドラムの音が一気にせり上がってくる。

会場全体で息の揃ったクラップが、静かな歌い出しを支える。
スクリーンに映るのは、MVの映像。そして手書きの、彼女自身が綴った歌詞。

バーチャルにとっての「史上初」を、何度も背負ってきたこの曲。
その度に、偏見すら超えて人の心をうつのは、
きっと、等身大の彼女の想いが切実に表れているからだろう。
そしてその言葉を届けるのは、幾つもの逆境に耐え、研鑽を重ねて磨き上げられた歌声。

先を見据えるその姿には、揺るぎない矜持がある。

 

その手を伸ばして 誰かに届くように

本当に大切なものは

目に見えないみたいなんだ

 

導かれるように、一斉に掲げられる手。

会場の奥の奥まで捉えたショットが、
あらゆる顔ぶれを映し出す。
個別に映る面々の中には、
海外の人もいればおばあさんも、
小さな女の子と一緒のお母さんもいる。
もちろん、星詠みたちも最後まで全力で場を盛り上げている。

これだけの人にとって、彼女は今現実だ。
紛れもなく。

耳を澄ませる会場は一面の青に染まり、その中で濃いペンライトの明かりが細かくちらつく。音楽で溢れた一日を締めくくるように、煌びやかに広がっていく音と光。

 

目一杯の声援を受けて、最後の挨拶をする星街。

「ありがとう!!!

月が綺麗な夜に、みんなに会えて嬉しかったです!

星街すいせいでした! See you again!!!」

 

惜しむ間も無く終わる配信画面を、しばらく放心しながら眺めていた。
しかし、これから起こるであろう大スケールの展開からすれば、このライブでさえ始まりに過ぎない。
そう思うと、時代の変化の、成長の激しさに目眩がすると同時に、その続きを見届けるのがこの上なく楽しみになった。

 

(文:Akanista)